旧唐瀧家住宅改修
昭和8年築の木造の京町家をリノベーション
京町家が京町家であり続けるため(その構造や意匠を残すために) 、建築基準法の適用を除外する条例(京都市歴史的建築物の保存及 び活用に関する条例)を適用した。
町家再生のプロデュースにあたった栗原佳美はミャンマーに在住経 験があり、ミャンマーをはじめとするアジアの古くて趣のある良質 な素材が各所の仕上げ材として支給され使われている。
例えば、象を用いて運搬されていた時代のラオスで伐採されたチー ク材による床材、またタイの仏教寺院の屋根に使用されていたチー ク材を再構成したパネル、シンガポールにて発掘・再生された「 プラナカンタイル」、お蔵入りしていた「マジョリカタイル」など。
京町家という日本伝統の住空間と異文化素材を融合させ、今までに 見なかった新しいテイストとして完成させている。
建物を末永く残していきたいという想いが可視化されたノスタルジ ックな空間に仕上がった。
京都市文化財保護課が主催する『京都を彩る建物や庭園』に朱雀分 木町の町家(すじゃくぶんきちょうのまちや)として認定済
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http://kyoto-irodoru.com/shimogyo/suzyakubunkicho.html京町家を所有、改装、再生に至った趣旨や経緯等
京町家は日本の住文化の蓄積を今に伝える建築物で、その魅力は近年再評価されており、その保存と活用が叫ばれて久しい。今回の「楽平家サロン」プロジェクトは、ミャンマーをきっかけの一つとして、そして、ほかのつながりも巻き込みながら、新たな出会いや創造の場を拡げて行こうとする試みである。オープンな場としての町家の活用であり、保存・再生の活路を見出していくチャレンジでもある。
私の父は、早くから東南アジアに目を向け、ミャンマーの人などを研修で招聘していた。私は、そのお手伝いをすることで、ミャンマーとつながりを深めていき、ミャンマーのヤンゴンとピンウールインで生活し、現地で事業を展開するなどした。そのひとつに、電気や水の供給、衛生面など、インフラの整わない現地で住環境を改善するための経験を積んだことがある。また、現地の職人相手に仕事の指示をするのは大変だったが、改修自体は自分の性にあっているのか面白く、学校では教えてもらえない内容の勉強が出来る貴重な体験となった。
そういうことがあって、私の現地のアパートはそれなりに住心地も良く便利な場所にあったため、日本人のボランティア団体が、年間を通して代わる代わるルームシェアをして住むようになった。
ところで、京都は日本文化の源流をなしていて四季折々、様々な楽しみに満ちた場所だ。外国の生活に疲れた身には洗練された京都らしさが癒しとなり帰国するたびに京都を訪れたものだ。そして、いろいろと京都について調べるうちに京町家というのがあり、保存・再生が社会的課題となっていると知った。京町家ならば文化的貢献が出来、その価値に賛同する人たちとコミュニティを作っていけると期待して、そこに自分の後半生の生きがいもあるのかなと考え、京町家のシェアハウスの事業を進めていった。
以上のようなことが、今回のプロジェクトの背景にあるといえるだろう。
さて、京町家の改修については、構造を残して中身が全く変わってしまうことも多いそうだが、私の場合はその魅力を残し利用して、現代に活かす事をモットーとしている。
京町家は奥に深く昔から職住一体で、一階の前の部分が店で奥や二階が住居、西陣などでは職人の仕事場が住居の一部にあるなどが典型的な造りである。また、中庭や奥庭などで外光や空気を取り入れて四季を常に感じるしつらえになっている。
「楽平家サロン」では、ミニライブラリーやイベントスペース、ギャラリー、そして、カフェやレンタルスペースなど、部屋ごとに改装し多目的な用途が実現できるようにした。構造は変えられないので、今後、それぞれの部屋にどういった機能をどう付加し、それぞれの用途が相乗効果をもたらすようにしていくかなどの運営面での工夫が必要となると思われる。もちろん町家に残された床の間や建具、欄間などのしつらえや意匠はできるだけ残して活かすようにしている。
昔からその場に存在していたものは、言葉の代わりに視覚を通してその歴史を物語ってくれている。その柱や壁などの構造物は生き証人で、町家に入ると、五感を超えた感性が刺激される気がする。町家の名前通り、町家は町衆の交流する場であり、彼らが活躍していたエネルギーの記憶が今も建物の中にあると感じる。時代が変わっても形を超えても同質のエネルギーに出逢えば、そのエネルギーと同化・合流し、また新しいうねりとなって歴史が作られて行くのだろう。
最後に、今回の町家についての歴史も語っておきたい。昭和8年に建設された当町家の外観はタイル風鉄板貼りや出越し状部分は洋風に仕上げられ、応接間は洋間になっており、昭和初期の京都市内周辺部での近代和風住宅で、町家の系譜を踏襲しつつ近代化が図られた事例として貴重な建物であり、平成30年6月21日に「京都を彩る建物や庭園」に選定され、同年10月19日に認定されている。
建物を建てた方のお孫さんの話によると、お爺さんは大変慎重な方で建物は頑丈建てられており、外からの害虫侵入を防ぐために隣との境界に鉄板が貼られているなど工夫がされている。今回の工事で天井裏を点検した際なども、ねずみの侵入が見られず非常に清潔な状態であったという。 また、京都中央信用金庫は京都中央卸売市場の関係者が主体となって興された金融機関で、市場の仲卸業者であった当家のお爺さんも、同信用金庫の理事でもあったとのことである。
前の持ち主さんがどういう方で、どのような使われ方をしていたかを知ることは大変重要である。「なんとなくこんな方だったのだろう」と感じられてくると、歴史を紡いでいる事を実感する瞬間でもある。私にとっての町家再生の意味はこんな所にもある。
(栗原佳美)
「旧唐瀧家住宅」 オンライン説明会 & 現地見学会
「旧唐瀧家住宅」オンライン説明会と現地見学会が、それぞれ9月 29日(火)と10月2日(金)に開催されました。これは、京都市の都市計画局建築指導部建築指導課の歴史的建築物保存活用係主催による催しです。
詳細は以下をご覧ください。