長谷川等伯の生まれ故郷の石川県七尾市の七尾市美術館には、長谷川等伯の作品が多く収蔵されています。
七尾市美術館のホームページ ➡ https://nanao-art-museum.jp/
同美術館所蔵の等伯(信春)の作品の紹介 ➡ https://nanao-art-museum.jp/hasegawatohaku
上記サイトには、「猿猴図屏風」「松竹図屏風」について、次のように、紹介されています。
猿猴図屏風
- 作者:長谷川等伯(1539〜1610)
- 制作年代:桃山時代員数:2曲1隻
- 技法1:日本画
- 技法2:紙本墨画
- 法量(cm):縦160.0 横240.0
- 指定:石川県指定有形文化財
本図は平成27年4月に新発見作品として全国ニュースとなった作品で、発見当初は損傷が激しかったが、修復されてよみがえった。旧所蔵者である京都造形芸術大学のご厚意で、同年七尾市が購入し、同年秋に特別公開した。
本図は「松竹図屏風」と共に伝わっているが、現段階では別の作品として紹介している。右扇の右端下部から大きな樹木の幹が二手に分かれ、その内1本は画面中央を横切って左扇へ伸び、そこに猿が1匹座っている。樹木の根元周辺には岩と笹が配されている。その猿は、「枯木猿猴図」(京都市・龍泉庵)右幅の母猿と、全く同じポーズである。「枯木猿猴図」では母猿の肩の上に子猿が描かれており、本図をよく見ると母猿の右側に子猿の小さな手が確認され、よく似た子猿が描かれていたことが想像される。次に左扇に移ると、「枯木猿猴図」の左幅に描かれる枯木にぶら下がる父猿らしき猿と、そっくりな猿が描かれている。
また、右扇の母子猿は足の向きは逆であるが、「竹林猿猴図屏風」(京都市・相国寺)の母子猿とも近似し、父猿は「猿猴捉月図襖」(京都市・金地院)の猿ともほぼ同じポーズである。興味深いのは猿の毛の筆法である。本図では縮れたような描き方が特徴的で、相国寺本や龍泉庵本の筆法とは明らかに異なる。
しかし、相国寺本と龍泉庵本でもかなり描き方に違いがあり、意図的に描き分けたものと解釈される。調査にあたった黒田泰三氏も述べられているように、足の立体感は的確に描写され、顔の濃墨の入れ方、淡墨の上から鋭くかつ丁寧に描き込んだ毛、笹の勢いあるタッチや右端中頃の濃墨の樹葉なども、等伯の表現といってよい。制作年代については、研究者の中でも若干見解が分かれる。50歳代初めとなると、相国寺本と近いが、筆法からして相国寺本より前ではないであろう。
一方龍泉庵本は、線自体に重きを置いている感があり、「濃墨を多用した豪快な筆さばき」という60歳代の特徴であり、本図より後の制作と考えられる。また、本図の細く鋭い毛描きは金地院本に最も近く、両者は近い時期に描かれた可能性がある。現在のところは、50歳代後半頃の筆としておきたい。
なお、画面の構図や、右扇と左扇の各中心には縦の褪色が見られることから、本図は6曲屏風の4扇分で、本来は左右にもう1扇分ずつあったと解される。左側には捉月図が交わって、金地院本のように水面に映る月が描かれていた可能性もある。
松竹図屏風
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作者:長谷川等伯(1539〜1610)
制作年代:桃山時代員数:2曲1隻
技法1:日本画
技法2:紙本墨画
法量(cm):縦160.0 横240.0
指定:石川県指定有形文化財
本図は「猿猴図屏風」と共に修復され、平成27年に「等伯の真筆水墨画新発見」として発表された作品である。「猿猴図屏風」と同じく七尾市が購入し、同年特別公開した。
本図は画面左扇の左端から右上方に向って大きな松樹が覗き、右扇の右端まで緩やかなカーブを描いて枝を伸ばす。下部には土坡が描かれ、左扇松の後方から孟宗竹が茂り右扇へと続いていく。濃墨を効かせながら淡墨と巧みに描き分け、遠近感を表す。右扇に行く程淡墨で消えゆくように描かれた部分を、北春千代氏は「靄のかかったような叙情感を誘う表現が意図されている」と述べられた。
老松の樹皮は、「老松図襖」(京都市・金地院)の樹皮の表現と酷似し、「烏鷺図屏風」(DIC川村記念美術館)の、左隻松樹の樹皮表現へと繋がっていく。さらに、竹の節と節との間の稈に、横に濃い墨を2筆入れる独特の表現や、墨の濃淡によって風になびく葉叢を巧みに表現した部分は、「竹鶴図屏風」「竹虎図屏風」(何れも出光美術館)と酷似する。「竹鶴図屏風」のメリハリの利いた墨の濃淡表現や、一気に引いた迷いのない幹の線などは、「松林図屏風」に最も近いと評価されるが、本図は墨の艶といい調子といい筆法といい、その「竹鶴図屏風」と極めて近く、注目に値する。
本図の制作年については、「猿猴図屏風」と若干ずれるとの見方もあるが、墨色や筆の勢いなどを見る中では、「猿猴図屏風」と近い、50歳代後半頃の制作ではないかと解される。
なお、「猿猴図屏風」と同じく各扇中央に縦の変色が見られ、本図も6曲屏風の4扇分で、本来は左右にもう1扇ずつあったと考えられる。現状でも迫力があるが、制作当初はさらに広がりが感じられる秀作であったと思われる。
同美術館は、令和4年度春季特別展「長谷川等伯展 ~水墨・濃淡の妙 VS 着色・彩りの美~」、令和5年度春季特別展「長谷川等伯展 ~水墨の美技と、一門の俊英と~」と、毎年シリーズで「長谷川等伯展」を開催しています。
ただし、2024年4月〜2025年3月については、「地震の影響のため当面の間、休館することから、展覧会を中止させていただきます。ご迷惑をおかけしますが、ご理解賜りますようお願い申し上げます。」とのことです。