第3回『楽平家オンラインサロン』
今、ミャンマーの人と社会を語り合う
2020年10月14日(水)
20:00
~映画『僕の帰る場所』と、転換期の
 ミャンマー
映画『僕の帰る場所』より @E.x.N K.K.
<無断転載ご遠慮ください>
今、ミャンマーの人と社会を語り合う ~映画『僕の帰る場所』と、転換期のミャンマー

日緬合作映画『僕の帰る場所』(藤元明緒監督、2017年)は、2018年東京国際映画祭・アジアの未来部門にて作品賞及び国際交流基金アジアセンター特別賞(監督賞)などを受賞しました。こうした評価にたがわず、いろいろと考えさせられる映画です。在日ミャンマー人について丹念に描くとともに、それを通して、より普遍的な問題を問いかけています。既にご覧になった方も多いと思いますが、今回あらためて、それぞれの受け止めや思いを語り合えればと思います。

ところで、映画に描かれるような、国外の異なる文化のもとに生きる人々からの影響もあり、ミャンマーの社会は転換期にあるといえます。また、政治の世界でも、11月8日(土)に5年ぶりの総選挙が予定されており、一つの節目を迎えようとしています。軍、宗教、そして民族問題と大きな課題を抱える、この国の在り方についても、皆で一緒に考えてみたいと思っています。

NPO法人 日本・ミャンマーメディア文化協会 理事長の佐藤華子さんと対話をしながら、そして参加者の皆様にも積極的に加わっていただきながら、話を展開していきたいと考えています。

ミャンマーについて思うことや質問のある方は、あらかじめ、参加申し込みメールの末尾に記していただければ、話の中で皆様と共有していきます。

よろしくお願いいたします。


田村克己

【楽平家オンラインサロン 第3回報告】
過去から未来へ、変わりゆくミャンマーを考える
~ 民族、宗教、そして国家とは ~
 「今、ミャンマーの人と社会を語り合う ~映画『僕の帰る場所』と、転換期のミャンマー」と題する楽平家オンラインサロンが10月14日、開催された。これは、大きく変わりつつあるミャンマー社会を多角的に理解するために企画されたもの。当日は、国立民族学博物館および総合研究大学院大学の田村克己名誉教授と、日本・ミャンマーメディア文化協会の佐藤華子理事長の対話形式によって進められ、70人近くが接続した。在日ミャンマー人の現状をはじめ、ミャンマー人の人間関係の特徴や宗教、民族など、話題は多岐にわたり、チャット機能も活用して参加者とも活発な質疑応答が行われた。
「僕の帰る場所」のワンシーン
(佐藤さんの発表資料より)
祖国とアイデンティティを問う映画
 田村さんと佐藤さんは、まず日本とミャンマーの合作映画『僕の帰る場所』(藤元明緒監督、2017年)を紹介した。2014年11月から12月の撮影期間を含め、構想段階から4年をかけて制作されたこの映画は、2018年に東京国際映画祭・アジアの未来部門作品賞や国際交流基金アジアセンター特別賞(監督賞)などを受賞し、注目を集めた。この映画で描かれるのは、日本でつつましくも仲良く暮らしていたミャンマー人夫婦と2人の息子たちの日常が、ある事件を機に一変する様子だ。特に、父親を日本に残してミャンマーに帰国することを選んだ母親に連れられ、初めて「祖国」の地を踏んだ子どもたちにとって、その経験はアイデンティティの再構築を迫られるほど大きなものだった。
佐藤華子さん
 この映画の制作支援から広報まで携わっている佐藤さんは、作品の狙いと影響について、「一家が難民か否かということより、日本に居住する外国人がどんな暮らしをしているのか想像してほしい」「周囲の環境や国境を超えた移動によって子どものアイデンティティがどう変わるか考えるきっかけにしてほしい」「劇場上映が終わり、学校や自治体などで自主上映が続いている中、映画を見てボランティア活動を始めたり、地域に住むミャンマー人との交流が生まれたりしている」などと述べた。
 これを受け、田村さんは「ミャンマーでは水浴びの習慣しかないが、映画では子どもたちがアパートのお風呂場が湯舟に浸かりながらはしゃぐシーンが出てきて、日本で生まれた彼らが日本の生活にすっかり馴染んでいる様子が丁寧に描かれていると感じた」と評した。また、ミャンマーでお兄ちゃんがおばあさんのことを「くそばばあ」というシーンについても、「日本人の子どもなら冗談で口にするかもしれないが、ミャンマーでは子どもが決して口にしない言葉遣いだ」と指摘した。
在日外国人のデータ(国籍別)
総数 2,731,093人
(佐藤さんの発表資料より)
法務省2018年12月統計
さらに佐藤さんは、行政書士として在日外国人のビザの支援をしている立場から「現在、日本には2018年12月時点で273万1,093人の外国人がおり、うちミャンマーは0.9%、2万6,456人。在留資格別に見ると、技能実習生が最多で8,432人、次いで留学生が6,350人で、全体の4割が東京に在住している」と概観した。
在日ミャンマー人のデータ
総数 26,456人
(佐藤さんの発表資料より)
法務省2018年12月統計
 これを受け、参加者からは、永住者と定住者の違いや、難民はどう分類されるのか、といった質問が寄せられ、佐藤さんは「永住者のビザには期限がないが、定住者のビザには期限があり、1年、3年、5年の期限ごとに更新する必要がある」「難民認定された人や、軍政時代に逃げて来た人で人道的な配慮が必要とされると認められている人は"定住者"に分類され、難民認定申請中の人は"特定活動"に入る」と答えた。また、新型コロナの影響については、「就職の内定が取り消された事例は聞いていないが、ミャンマー人に限らず派遣社員で働いていて契約を打ち切られたという相談は何件かある」「全体的には、皆、比較的落ち着いている印象だ」などと述べた。
祖国とアイデンティティを問う映画
 続いて2人は、田村さん自身も執筆と編者の一人を務めた『転換期のミャンマーを生きる 「統制」と公共性の人類学』を取り上げた。本書は、3つの大きな問題、すなわち「統制のほころび」、「宗教」、「少数民族」を取り上げ、公共性との関わりについて考察している。
(『転換期のミャンマーを生きる 「統制」と公共性の人類学』 土佐桂子・田村克己編、風響社、2020年3月)
 まず、佐藤さんが「民族や宗教など、日本人には馴染みのないテーマが掘り下げられ難しかったが、身近なフェイスブックと公共性について論じた第1部4章は理解しやすかった」と感想を述べ、「投票日が近づくにつれてミャンマー人の友人がフェイスブック上の自分のアイコンに支持政党のロゴを次々と載せ始めた」と紹介。これを受け、田村さんが「民主化に伴い、フェイスブックは政治的なメッセージを含め自由に意見を表明する場として浸透しつつある」と述べた。
フェイスブックのアイコン例
(佐藤さんの発表資料より)
 さらに田村さんは「ミャンマー人は昔から情報交換の場を大切にしてきた」と続け、「村では、年代や性別ごとに家の軒先や高床の下の縁台で集まってはお茶を飲みながら談笑する光景が昔からあった」「町に住む人々は、日本の風呂場で使うような低い椅子(あるいはスツール)を並べた茶店に、多い時は日に4~5回集まっては、ラペイエと呼ばれるミルクと砂糖が入った甘いお茶を飲みながらお互いの情報や知識を交換し合っていた」と振り返った。また、こうした仲間を「ラペイエワイン」(お茶の輪)と呼び、ラペイエを一緒に飲むことでお互いに「親しい間柄」(キンミン)だと確認し合うという意味があることなど、第1部1章の内容を紹介した。
(田村さん撮影)
(田村さん撮影)
 また、「最近はショッピングセンターにあるカフェなどで女性の一人客を見かけることも増え、社会が変わりつつあるのを感じている」とも語った。
(田村さん撮影)
個人の人間関係が社会の基盤
 続いて田村さんは、こうしたキンミンの関係について「仏陀や僧侶に一緒に斎飯を差し上げたり、誕生日を祝い合ったりすることで維持され、強められていく」と指摘。「親しくないの?」(マキンブーラ?)と問いかけることで相手の行為を引き出すという互酬的な側面もあると述べた上で、「この関係はあくまで個人と個人の間に結ばれるもの。ある家の一人と親しいからと言って、他の家族とも親しい間柄にあることを意味するわけではない」と述べた。さらに、「家制度を持つ日本社会や、親族関係の強い組織のある中国社会と異なり、ミャンマー社会では人間関係が世代を超えて受け継がれず、苗字もないのが特徴だ」と説明した。
(田村さん撮影)
 さらに、ミャンマーでは徳の多寡で来世の「運」や「カルマ」、「業」が決まるという考え方があることを説明し、「この背景には、相手に喜んでもらうことで自分が功徳を積みたい(積徳行為)という利己的な動機がある」と述べた田村さん。「ミャンマー人に何かしてあげてもお礼を言われることが少ない」という日本人のコメントを紹介しつつ、「何かしてあげるということは、相手に負債を負わせるということ。互酬性の関係では、その場でお礼を言って完結させなくても、むしろその方が関係は続くと考える」と指摘した。
 また、「以前は出家していない俗人が僧侶にサービスを差し上げることが大きな功徳を積むことだとされていたが、2008年にサイクロン"ナルギス"で大きな被害が出た際、多くの僧侶が俗人の支援を行ったのを機に、相手が俗人でも功徳を積むことができるとの認識が広まった」と述べた。

仏教ナショナリズムと領土支配
 次に、佐藤さんが「本書では仏教ナショナリズムに関する記述もあるが、国家と宗教がどうつながるのか、日本人としては理解が難しかった」と尋ねた。これに対し、田村さんは「世界的に見ると近代国家は宗教のくびきから外れて国づくりが進められたケースが多いが、ミャンマーをはじめ東南アジア諸国では、しばしば仏教とナショナリズムが連動してきた」と指摘し、例として第二部6章で紹介されている「九六九運動」を挙げた。これは、「イスラム教から仏教徒や仏教自体を守る」という大義名分のもとで、仏教徒が営む店に「九六九」のステッカーを貼って購入を促す一方、イスラム商店での不買運を起こしたり、仏教徒とイスラム教徒の結婚を制限する法律の制定を求めたりする反イスラム的な運動である。
田村克己さん
 田村さんは、「これが基になり、出家者で構成される民族宗教保護協会(マバタ)が設立された」と振り返った上で、「2015年の総選挙の際、マバタは軍事政権の流れを組む与党の連邦団結発展党(USDP)を支援したが、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)に大敗し、僧侶が政治に関与することに一定のけん制がかけられることになった」と指摘。「以来、マバタは社会福祉の団体だと名乗り、俗人への社会福祉活動を行うようになった」と述べた。
 最後に、国土を統一した指導者として歴史上に名を残す3人の「英雄王」として、アノーヤター王(パガン朝)、バイナウン王(第1次タウングー朝)、そしてアラウンパヤー王(コンパウン朝)を紹介し、「もともとミャンマーは国の大きさに比べて人口が少なかったため、近隣を征服し、捕虜を入植させて仏教の価値観や倫理観を共有することでビルマ(ミャンマー)人として認め、国づくりを進めてきた」と指摘。その上で、「東南アジアの王権には領土支配の観念が欠如していたため、中央の力が周辺を直接支配しようとしなかった時期があり、民族の概念や境界が曖昧で主観的なまま残されることになった」と語った。
~
 全体を振り返り、参加者からは、「政治と宗教、民族の間で揺れ続けるミャンマーで安定した国づくりを進めるためには何が必要か」、「ロヒンギャ問題をどうとらえるべきか」、「日本がかつてヨーロッパから法律を学んだように、なぜミャンマーでは国の成り立ちの中で法的な議論がされてこなかったのか」といった質問が寄せられた。これを受け、登壇者の2人は、「将来の予測は難しい。少なくとも今回の選挙では現状が大きく変わらないだろうが、NLDは少数民族地域では票を伸ばせないだろう」(田村さん)、「ロヒンギャ問題は民族や国民という考え方自体に根本的に関わる非常に難しい問題。幾重にも積み重なった歴史を遡って理解すべき」(同)、「例えば国籍法は誰がどういう立場で整備し、誰が国民として認められ、誰が認められていないかという議論がこれまで十分に共有されてこなかった。かつてモデルにしていたユーゴスラビアが結果的に連邦国家として成功しなかった経緯もあり、なかなか難しい」(同)、「NLDを実質的に率いるアウンサンスーチー国家顧問の後継者を育てない限り、5年後の選挙は厳しいのではないか」(佐藤さん)などと答えていた。
(記事執筆:玉懸 光枝)
<無断転載ご遠慮ください>
アンドモア
NPO法人 日本・ミャンマーメディア文化協会は、現在、映画『僕の帰る場所』の自主上映会の募集・運営を行っています。

日本・ミャンマーメディア文化協会のサイトは、
https://jmmca.or.jp/
です。

映画『僕の帰る場所』の藤元監督の新作は、インパール作戦の「現在」を追った短編『白骨街道』と、ベトナム人技能実習生に焦点を当てた長編『海辺の彼女たち』です。
株式会社E.x.Nのサイト
http://www.exnkk.com/
をご覧ください。

佐藤華子さんは、ミャンマー人など、日本にいる外国人のビザ業務の専門行政書士としても日々奮闘されています。
https://www.itojuku.co.jp/shiken/gyosei/jitsumu/re...
をご覧ください。

また、彼女は、ミャンマー渡航中、田舎町でひとりの少女と出会ったことをきっかけに、ミャンマーでは家族の事情のために教育を諦めざるを得ない状況を知ったとのことです。その後、「ミャンマーで初の女子大学を作る」というプロジェクトを掲げ、運営している日本人とミャンマー人のパートナーらとの出会いを経て、彼らと協同することに。「『おしん』のような芯のある女性を輩出したい」との想いから、株式会社おしんドリームを起業、現在、その活動もされています。
おしんドリームのホームページは、
http://www.myanmarsm.com/
です。

土佐桂子、田村克己編『転換期のミャンマーを生きる 統制と「公共性」の人類学』については、出版社の風響社の以下のサイトをご覧ください。
http://www.fukyo.co.jp/book/b507900.html
~
次回、11月11日(水)の第4回は、土橋泰子さんの「ミャンマー山岳地帯に住むナガと呼ばれる少数民族」です。
そして、第5回は12月9日(水)、井上岳彦さんの「バルト海に生まれビルマに死す:僧侶カール・テニッソン(1883-1962)の生涯」です。

ご期待ください!

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