無国籍者についての絵本を紹介する、小学生新聞の記事
(『朝日小 学生新聞』2022.08.18号. 画像提供・陳天璽)
< 無断転載ご遠慮ください>
第26回
『楽平家オンラインサロン』
2022年10月12日(水)
20:00〜
絵本『にじいろのペンダント~国籍のないわたしたちのはなし』 ができるまで、そして、これから
話の内容とプロフィル

≪内容≫


どの国の国籍も持たない=無国籍の状態にある人は世界で1000万人以上、日本国内にも数百人が存在するとされます。光の当たることの少ないこの問題を知ってもらおうと、学生ボランティア団体「無国籍ネットワークユース」が中心になって制作した絵本『にじいろのペンダント』が、2022年7月に大月書店から刊行されました。

物語のモデルとなった当事者で、無国籍者の研究や支援活動をしている陳天璽、絵本作家・コーディネーターの由美村嬉々さん、絵本画家・幼児教室講師のなかいかおりさん、そして無国籍ネットワークユースの学生たちと、業種のみならず、10代から60代まで世代を超え、絵本づくりにとりくみました。

オンラインサロンでは、陳天璽が無国籍者として生きた経験や国籍に関する研究とともに、学生たちが絵本を作ることになったきっかけやクラウドファンディングの取り組み、そして、絵本の読み聞かせをします。


≪プロフィル≫

〇無国籍ネットワークユース

早稲田大学や国際基督教大学、慶應義塾大学など、インカレのボランティアサークル。無国籍について『学ぶ・寄り添う・伝える』ことをモットーに、国内外に住む無国籍者にとってより良い社会を目指すため、勉強会、写真展、無国籍児への教育支援、海外研修などを行っている。

無国籍ネットワークユースStateless Network Youth(@statelessnetwork) • Instagram写真と動画

〇陳天璽 (CHEN TIENSHI・ちん てんじ)

早稲田大学国際学術院教授、NPO法人無国籍ネットワーク代表理事

横浜中華街生まれ。1972年国際関係に翻弄され生後間もなく無国籍となり、30年ほど無国籍者として生活。その経験から国籍、アイデンティティに注目し、華僑華人、世界のチャイナタウン、移民、難民、無国籍者についての研究や活動に従事。

著書に『華人ディアスポラ華商のネットワークとアイデンティティ』(明石書店、2001)、『無国籍』(新潮社、2005【文庫版】2011)、『忘れられた人々―日本の「無国籍」者』(明石書店、2010)、『無国籍と複数国籍-あなたは「ナニジン」ですか』(光文社、2022)など。共編著に、『東アジアのディアスポラ』(明石書店、2011)、『越境とアイデンティフィケーション―国籍・パスポート・IDカード』(新曜社、2012)、『パスポート学』(北海道大学出版会、2016)。

NPO法人 無国籍ネットワーク – 無国籍ネットワークは無国籍者の今と未来を考えます (stateless-network.com)

【楽平家オンラインサロン 第26回報告】
【ごあいさつ】

こんにちは!無国籍ネットワークユースです。

2022年10月12日(水)20時から開催しました、第26回『楽平家オンラインサロン』にて絵本『にじいろのペンダント〜国籍のないわたしたちのはなし〜』ができるまで、そしてこれからの活動についてお話しさせて頂きました。当日お話ししたこと、そして皆様とのディスカッションをこちらで少しご紹介いたします。

【会の流れ】
  1. 無国籍とは?
  2. 無国籍ネットワークユースの活動について
  3. 絵本作成の経緯
  4. 完成した絵本の読み聞かせ
  5. 陳天璽先生とのトークセッション
  6. 質疑応答


»
1:無国籍とは?
無国籍とは?
国籍を持たない人のこと。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、2020年には420万人いると言われているが、統計から漏れている方々も含むと、1000万人ほどいると言われている。


国籍とは?

通常は、生まれた時点で出生国または親と同じ国籍を取得する。
国籍法が国ごとに異なる。国籍法の種類は主に2つに分けられる。

1:血統主義
ex 日本、中国、ドイツ

2:出生地主義
ex ブラジル、アメリカ、アイルランド

国籍法の違いがきっかけで重国籍になることもある。


無国籍者について
原因は多岐にわたる。
ここでは、4つのパターンを紹介する。

1:証明不能型
書類が用意できないため、証明ができず無国籍性が発生

2:国家承継型
国家が紛争などにより消失。継承国家でも国籍の確認が取れない。

3:国籍法による排除
関連国の法律により国籍を否定される。

4:民族的な差別
ロヒンギャ、クルド問題など

この4つに当てはまらないケースは多々ある。無国籍になる理由はその人のバックグラウンドによって様々だ。


無国籍者について
無国籍者は、生活する上で様々な困難に直面する。
結婚、就職、留学を筆頭に、様々な問題に直面することが多くある。日本では無国籍の定義が曖昧なこと、理解がないことに原因がある。


日本の無国籍者をめぐる問題

1:無国籍者に対する十分な理解がないこと
2:国際条約2つに加盟していないこと
3:無国籍を認定する制度がないこと

わたしたちユースでは、この"1:無国籍者に対する十分な理解がないこと"に注目し、無国籍を「伝える」ことを活動の一つとして行っています。

そしてその「伝える」活動の一つでもあるのが、絵本の作成です。

»
3:絵本作成の経緯
2020年6月 「無国籍って何?」講演会
2020年8月 早稲田祭2020に向けて、紙芝居 作成開始
2020年11月 早稲田祭

絵本の出版の検討開始(出版社の絵本大賞に応募?)

2021年3月 出版社探しスタート!
2021年5月 出版社の方のご協力で商業出版決定
2021年5月から現在 原稿修正やイラスト案、イラストレーターの選定

クラファン準備

2022年2月 最終稿完成、クラウドファンディング開始
2022年7月18日 大月書店より出版

今後 近隣小学校で読み聞かせ、絵本のイベント開催


きっかけは、コロナ禍、対面での活動ができなくなった際に、始めたオンラインセミナー。一昨年の6月に陳天璽先生に登壇いただいてお話しいただいた内容が、原点となっている。(無国籍ネットワークユースの公式YouTube https://youtu.be/JApFzEqm6p8にてアーカイブがご覧いただけます。)

これをもとに、ユースが秋の文化祭に向けて紙芝居を作成。(原点の紙芝居もYouTube https://youtu.be/I7oU_GEznn8にてご覧いただけます。)この紙芝居の内容をもとに絵本作成へとつながる。

»
4:完成した絵本の読み聞かせ
https://youtu.be/3EYR1qlw4Fk

上記のリンクは、先日ユースで開催した別のイベントですが、読み聞かせを披露していますので、よろしければぜひご覧ください。

»
5:陳天璽先生とのトークセッション
Q:無国籍になった経緯は?

A:50年前。1972年の日中国交正常化により、台湾と日本が国交断絶。台湾国籍を有していた華人が日本には当時多かった。ハルビン出身の父は満州の時代を経験、日中戦争も経験、国民党共産党の戦いも経験した。父方の家がハルビンでは共産党からするとブラックリストに載ってしまう。母方の祖父は国民党の将軍だったので、内乱の時に台湾に渡った。父方は中華人民共和国の国籍を得るのに抵抗があった。母方は日本国籍を得ることの躊躇があった。そのため、台湾と日本が国交断絶の際、どちらの国籍も両親が得なかったことから無国籍となった。


Q:自分が無国籍だと知った時はどんな気持ちだった?

A:小学校の時に、パスポートのような在留資格がある無国籍の人に発行する再入国許可書に無国籍と記載があった。そこにサインした時に初めて知った。

外国人登録証明書(現 在留カード)に無国籍と書いてあった。高校生の時に父に聞いてみた際の父の「大丈夫。中国人として胸を張って生きて行きなさい」という言葉が記憶に残っている。


Q:無国籍だって実感した時は?

A:(絵本にも描写がある)飛行場での場面。大学2年の時、フィリピンへ行く用事のあった際に、日本に帰ってくる前に、台湾に寄ってから日本に戻ることにした。父と母は入れたが、自分は台湾に入れなかった。仕方なく、日本に戻ると、ビザが切れており、日本にも入ることができなかった。初めて、どこの国にも入れない自分は無国籍なのだと実感した。


Q:絵本の中の描写のように、どこに行ってもNOと言われる経験は過去にあったか?

A:アパートを借りる時に、身分証明書をだしたら、不動産の方がいまいちな反応だった。保証人をつけて欲しいと言われたり、保証人の銀行残高を見せることを要求されたりした。カードを作る時に、追加資料を送ることもあった。国連に就職を希望する際にも、加盟国の国籍がないと無理だと拒否された。国連は国を超えた組織だと考えていたので、驚いた。


Q:にじいろのペンダントの「にじいろ」とは?

A:博士論文にて記載した「虹色のメタファー」から。世界中にいる華僑華人のビジネスマンを研究した際に導き出した言葉、そして概念。一人の華僑をとっても、いろんな文化でいろんなアイデンティティを持っている。そしてそのアイデンティティを会う人によって分けている。マイノリティであっても、ビジネスを開拓していこうという強みにしている。人は実は国籍だけではなく、色々なもので構成されているということをペンダントで表している。人のそれぞれのバックグラウンドは国籍だけではない。


Q:にじいろのペンダントとは?

A:みんなが持っているもの。人との繋がり。自らが培ってきたもの。自信につなげて欲しい。


Q:「無国籍」に社会はどのように関わっていくべきか?

A:自分は在留資格がある無国籍だった。しかし、在留資格がないケースもある。無国籍にも様々なケースがある。在留カードには、国籍のところにミャンマーと書いてあっても、ミャンマーの方には自分は登録されていない無国籍の方もいる。

無国籍というだけで、ネガティブなイメージがある。そのイメージから、無国籍を公表できない当事者が多くいる。2014年から国連で始まっているのは、24年までに無国籍を0にしようというキャンペーン。しかし、国籍という制度がある以上それは不可能だと考える。それよりも、差別や偏見を無くすべき。国籍という問題を、私たちが考える機会が少ない。日本の教育制度においても、学ぶ機会が少ない。絵本を通して、国籍や無国籍を知るきっかけになれば嬉しい。制度による差別をなくしていきたい。制度に足りないところ、歪みがあるということを皆さんに知ってもらいたい。

無国籍であるということ、で差別をすることがないようにして欲しい。

»
6:質疑応答
Q:絵本のなかで国籍がないのに、どのようにパスポートが取れたのか、という質問です。もしかしたら子供向けに「再入国許可書」のことを意味しているのか、確認させてください。

A:再入国許可書を持っていました。


Q:絵本作成は、まず知ってもらうということを第一とした考え方だったのでしょうか?

A:1つは、まず無国籍について知ってもらうこと、2つ目は、自分のアイデンティティの大切さに気がつくことを目指しています。


Q:認知が大切だということだが、無国籍を「知る」こと「伝える」ことの先に皆さんはどんなアクションを起こすのでしょうか?

A:ユースとしては、学生の立場でハード面である制度や法律を変えることは難しいと考えています。学生でもできるソフト面である「伝える」ということを軸として活動しています。もちろん、卒業後社会人として、ハード面にも触れていけたらと考えています。しかし、ハードを動かすには、世論や人々の認識を変えて行くことが必要不可欠です。ハードを動かせるほどに、ソフト面からのアプローチをユースでは今後も続けて行きます。

»
さいごに
皆様、ご参加いただきありがとうございました。ユースでは、絵本『にじいろのペンダント〜国籍のないわたしたちのはなし〜』を大きな軸として今後も「伝える」活動を行ってまいります。絵本の寄付、そして読み聞かせ活動のご依頼もお待ちしております。
ネットや書店様からも絵本がご購入いただけますので、よろしければお手に取ってみてください。
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b606939.html

皆様がこの絵本をきっかけに、あなた自身が持っているあなただけの素敵な「にじいろのペンダント」に想いを馳せていただけたら、とっても嬉しいです。
(記事執筆:無国籍ネットワークユース 原尻伊織)
<無断転載ご遠慮ください>
陳天璽先生と無国籍ネットワークユース
(2022年9月、絵本出版記念イベントにて、「無国籍ネットワークユース」撮影)
<無断転載ご遠慮ください>
アンドモア

○絵本『にじいろのペンダント~国籍のないわたしたちのはなし』について

・「絵本ナビ」の記事
https://www.ehonnavi.net/mailmagazine/magazine-bk2...

・AmazonのKindleストアで電子書籍の販売をしています。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BCF8DJ17/ref=cm_sw_r_tw_dp_AVPDGF58GN0NVSZX4S3S
Kindleの場合、海外からも購入できます。
冒頭数ぺージが、サンプルとして読めるようになっています。

・大月書店のHPでも試し読みができるようになっています。
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b606939.html
こちらは半分くらいまで読めるようになっています。
電子書籍として購入すると全ページが読めます。

・もう一人の作者の由美村嬉々(木村美幸)さんが代表理事の「チャイルドロアクリエイト」のホームページでの紹介記事。
https://www.childlorecreate.or.jp/2022/06/03/387/

・ブックカフェ**「にじいろのペンダント」刊行記念トーク&レクチャー**(東京神田神保町)
7月15日(主催・大月書店);陳天璽さん、そしてもう一人の作者である由美村嬉々さんのトークセッション、そして由美村さんによる絵本の読み聞かせ、ユースの紹介や絵本作成についての話があります。
https://bookhousecafe.jp/event/content/535

9月3日(主催・無国籍ネットワークユース) → 「報告」記事の「4:完成した絵本の読み聞かせ」をご覧ください。
➔無国籍ネットワークユースは読み聞かせ活動をしています。
小学校や中学校、児童図書館、もしくはお知り合いのサロンなどで、読み聞かせをしてほしいという場合は、是非以下までご連絡ください。
ehonehon.sny@gmail.com

➔横浜国際芸術ミーティングで舞台『ジャスミンタウン』が上演されます(2022年12月10-11日)
https://ypam.jp/programs/dr78
絵本でもテーマになっている「にじいろのアイデンティティ」が本舞台でもテーマになっています。

陳天璽さんは舞台のリサーチアドバイザー、また、パフォーマーとしても舞台に出演します。
以下をご覧ください(intoxicateの10月号の記事転載)。
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/32808


○『にじいろのペンダント~国籍のないわたしたちのはなし』関連のマスコミ報道、関連イベント
(新しい順です)
・神奈川新聞(10月4日)
https://imakana.kanaloco.jp/article/entry-463413.h...
・朝日小学生新聞(8月18日) 
➔右の画像をご覧ください。

・沖縄タイムズ(8月14日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1007478

・NHKテレビ「NHK首都圏ネットワーク」(8月4日)
https://www.nhk.jp/p/shutoken-net/ts/MX1YJ59WZ8/ep...

・TBSラジオ+YouTube(生放送)「アシタノカレッジ」(7月28日)
以下の、YouTube放送の1時間18分過ぎから15分ほど、陳さんが登場しています。


・沖縄タイムズ(8月14日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1007478

・NHKテレビ「NHK首都圏ネットワーク」(8月4日)
https://www.nhk.jp/p/shutoken-net/ts/MX1YJ59WZ8/ep...

・TBSラジオ+YouTube(生放送)「アシタノカレッジ」(7月28日)
以下の、YouTube放送の1時間18分過ぎから15分ほど、陳さんが登場しています。


○陳天璽さんの新著『無国籍と重国籍~あなたは「ナニジン」ですか』(光文社新書、2022年6月)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/978433404...

・同書の試し読みが、以下のサイトでできます。
https://honsuki.jp/stand/54068/

・以下のサイトもご覧ください。
https://president.jp/articles/-/58801


「報告」記事の「1.無国籍とは?」中の、「日本の無国籍者をめぐる問題」に関して、追加情報

・「国際条約2つに加盟していないこと」について
無国籍者の地位に関する条約(1954年)
無国籍の削減に関する条約(1961年)

なお、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の以下の記事をご覧ください。
https://www.unhcr.org/jp/un_conventions

・「無国籍を認定する制度がないこと」について、陳天璽さんからの追伸
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
他国の条約批准国では無国籍認定制度がありますが、日本には「無国籍」について規定する法律がなく、無国籍者を認定する制度もありません。
そのため、本来は国籍を持っていないにも関わらず、あたかも国籍を有するかのように扱われている人が少なくありません。
例:ロヒンギャの人は、日本が発行する在留カード上では「ミャンマー」国籍となっていることがありますが、実際、ミャンマー国籍を有していないケースがあります。インドシナ難民の方が日本で子どもを出産したい場合、日本では「ベトナム」籍として登録されますが、ベトナム政府側には出生登録をされていないケースがあります。こうした場合、当事者は、海外旅行に行くためにパスポートを申請する、結婚のために独身証明書を取得するなど、成人になって関係する領事館で国籍を確認した時にはじめて、自分が当該国の国籍がなく、無国籍状態だったことを知る人が少なくありません。
日本に無国籍かどうかを認定する制度がないため、以上のような人たちは、上記なようなきっかけで知ることになります。それまでは、日本が発行する身分証で、自分はミャンマー国籍、ベトナム国籍と思っています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これからの「楽平家オンラインサロン」
11月9日は、20年以上にわたり、在日ミャンマー人への日本語ボランティアンなどを通して、ミャンマーと関わってこられた鈴木貴子さんが、主に在日ミャンマー人との関わり中で見聞きし感じた出来事を、その歩みに沿ってお話しされます。

ミャンマーが好きな日本人との出会いや、発行してきたミニコミ誌「みんがらネットワーク」及び、その後継のメルマガ「みんがらネットワーク通信」のことを語り、さらには、日緬交流の場を目指し、現在進行中の図書室「みんがら文庫」設立の計画についても紹介されます。

12月14日は昨年7月に続き高橋ゆりさんの再登壇です。高橋さんはミャンマー近代史とビルマ文学の研究の傍ら、30年間にわたってミャンマー古典音楽の歌手として活動を続けてきました。ヤンゴンで初めて古典音楽の学びを始めた1992年当時、どのようなトレーニングを受け、その後どのような展開があったのか。今まであまり語られたことのない体験を、この機会にお話しされます。
Laphetye
Made on
Tilda