第2回『楽平家オンラインサロン』
私の好きなミャンマーの歌
2020年9月9日(水)
20:00~21:30
― ミャンマー人留学生のお話
「カラオケ」を楽しむミャンマー人大学生
(撮影:ナンミャケーカイン、2019年1月、ヤンゴン)
<無断転載ご遠慮ください。>

話し手のミャンマー人留学生
Phoo Phoo Maung(プープーマウン)
関西学院大学 総合政策学部(4年生)
日本滞在歴:約5年

Khin Yati Kyaw(キンヤティキョー)
京都大学 地球工学科(2年生)
日本滞在歴:約4年

Kay Khine Kywe(ケーカインチュエ)
岡山大学 グローバル・ディスカバリー・プログラム(3年生)
日本滞在歴:約4年

Ingyin Phoo(インジンプー)
岡山大学 グローバル・ディスカバリー・プログラム(1年生)
日本滞在歴:約1年半
【楽平家オンラインサロン 第2回報告】
ミャンマー人留学生が愛する祖国の歌
~ 流行歌に見る社会の変化と若者の価値観 ~
 「私の好きなミャンマーの歌――ミャンマー人留学生のお話」と題する楽平家オンラインサロンが9月9日に開催された。これは、コロナ禍に見舞われ、大学の授業や就職活動もほとんどがオンライン化している中、日本人とミャンマー人留学生の交流の場を創出することで、ミャンマーの若者への理解を深めるために企画されたもの。当日は、日本各地で学ぶ留学生4人がそれぞれお気に入りのミャンマーの歌を一曲ずつエピソードとともに紹介し、40人あまりの聴衆が耳を傾けた。ファシリテーターは、自身も30年前に留学生として来日し、現在は横浜に拠点を置きつつヤンゴンで日本語学校を経営するナンミャケーカイン(Nang Mya Kay Khaing)さんが務めた。
未婚の母が歌う我が子への愛
プープーマウンさん
 この日、最初に登壇したのは、関西学院大学総合政策学部4回生のプープーマウン(Phoo Phoo Maung)さんだ。2015年に来日した当時、道路がすべて舗装されて街に砂が舞っていないことに驚いたり、ミャンマーで姉と一緒に楽しんでいた自転車の2人乗りが日本では禁止されていることを知って残念に思ったりしたと振り返るプープーマウンのお気に入りは、未婚の母が我が子への愛を歌う「シングルマーム」(Single Mom)。1カ月前に発売され、大きな話題を呼んでいるというこの曲について、「この曲を歌っている歌手のメロディ・コーン(Melody Khong)も17歳で出産したシングルマザーであり、同じ境遇にある女性たちへのエールが感じられる」「私と同じ年齢で大きな決断をした彼女を心から尊敬し、応援している」と話した。

 さらにプープーマウンさんは、「近年、ミャンマーでも若いカップルが結婚前に同棲し、子どもができるケースが増えているが、家族や周囲に知られることを恐れ、中絶したり自殺したりする人も多い。彼らをあたたかく受け入れ、共に今後を考えられる社会になってほしい」と、熱く語った。
叶わぬ恋に身を焦がす切なさ
キンヤティキョーさん
 続いて登壇したのは、2016年10月に来日した京都大学地球工学科2年生のキンヤティキョー(Khin Yati Kyaw)さん。来日当時の思い出について、「ミャンマーでは家族向けのアパートしか知らなかったため、日本の友達の部屋がとても狭く、コンパクトなトイレとキッチンが付いているのを見て、工場の寮のようだと思った」と振り返った。

 そんなキンヤティキョーさんが紹介したのは、恋人のいる女性に叶わぬ片思いをしている男性の気持ちを歌った「ミャウッ・ピッ・チン・デー」(Myout Phit Chin Tai)という曲だ。学校の先輩であるカンピョウ(Khant Phyoe)さんが書いた曲で、先生に勧められて聞くようになったという。タイトルは「猿になりたい」という意味で、女性がいつも持っているカバンにつけられたぬいぐるみの猿のように、いつも彼女のそばにいたい気持ちが込められていると解説した上で、「とても切ない歌で、中学時代を思い出す」と、キンヤティキョーさんは微笑んだ。
恋の喜びや人生の歌から受け取るエール
キンヤティキョーさん
 ケーカインチュエ(Kay Khine Kywe)さんも、キンヤティキョーさんと同じ4年前に来日した。現在は岡山大学のディスカバリープログラムで学ぶ3年生だ。来日した当初は、周囲の学生が車に乗った方が早く行けるような場所にも自転車で移動することに驚いたという。そんなケーカインチュエさんのお気に入りの一曲は、テッヤン(Htet Yan)という歌手が歌う「ヌェー・トァー・デー」(Nway Twar Tai)。「美しい恋人と出会って世界が一変した喜びを歌った美しい曲で、ロマンチックな気分に浸れるので好き」と話した。
インジンプーさん
 また、1年半前に来日し、現在はケーカインチュエさんと同じ岡山大学のディスカバリープログラムで学んでいる1年生のインジンプー(Ingyin Phoo)さんは、「来日当初、大阪の公園で話し掛けられた時に関西弁の速さに大変驚いた」と振り返った上で、一番好きなミャンマーソングとして、テン・ザーモー(Tin Zar Maw)という歌手が歌う「セイッ・マ・ニィッ・ネ」(Sate Ma Nyit Nae)を紹介。「人生は短いので楽しく過ごすべきだと歌うこの曲を聴くと、どんなに困難な状況でも苦しみはいつか終わるので今を大切に生きようというエールをもらい、励まされる」と話した。
ナンミャケーカインさんが「アメッ・エイン」に合わせて流したミャンマー各地の写真
 最後に、ファシリテーターのナンミャケーカインさんが、満員電車の中で新聞をA4サイズに折りたたんで読むサラリーマンを見て驚いたという来日当時の思い出を振り返った上で、実家への思いを歌った「アメッ・エイン」(Ame Eain)という曲をミャンマー各地の写真に合わせて紹介した。

 さらにナンミャケーカインさんは来たる11月に迫った総選挙にも触れ、国民の結束を呼び掛ける「シーローン・ティン・ビィー・ミャンマー・ピー」(Silone thint byi Myanmar Pyi)という曲のミュージックビデオにアウンサンスーチー国家顧問兼外相に扮した女性とミン・アウン・フライン国軍総司令官に扮した男性が握手を交わす場面があり、SNS上で議論を呼んでいると紹介した。
共感できる歌詞とノリのいい曲が人気
ナンミャケーカインさん
 発表を聞いた参加者からは、「使われている楽器も音階も馴染みがあって聴きやすい」「昔は母への思いや恋愛を歌った曲が多かったが、1曲目の未婚の母の曲には時代の変化を感じた」といった感想が寄せられた。
 また、「日本ではMISIAのように歌唱力で歌い上げる曲の人気が高いが、ミャンマーは曲調が軽くポップな音楽が好まれるのか」という質問には、インジンプーさんが「こういう気持ち分かるなぁと共感できる歌が好き」「覚えやすくて歌いやすい曲がいい」と答えたのに続き、ナンミャケーカインさんが「ミャンマーでは、歌唱力よりも歌詞の中身の方が重視されるように思う」と答えた。

 さらに、「ヤンゴンの水かけ祭りで、ノリのいいラップに合わせて老若男女が一緒に踊っているのを見た。現代曲は地方でも人気があるのか」という質問には、キンヤティキョーさんが「水かけ祭りは全国民にとって楽しいイベント」「期間中は地方でも幹線道路沿いにステージが設けられ、種類を問わず大音量で音楽を流して一緒に踊る」と答えた。
また、1950~60年代のミャンマー歌謡曲のレコードを収集している村上巨樹さんは、感想を聞かれ、「どの国でもポップスは欧米のひな型を踏襲するものであり、今日紹介された5曲にも伝統的なミャンマー音楽の名残りは残されていないが、いい形で結実している」とコメントした。
 このほか、留学生たちは、藤井風や米津玄師、あいみょん、平井大、SEKAI NO OWARIら日本の人気アーティストの曲を聴いたり、ラーメンやギョーザ、味噌汁など好きな日本食を楽しんだりしながら日本の生活を楽しんでいることも紹介。参加者からは、来日数年足らずの彼らが流暢な日本語を話すことに口々に驚きの声が寄せられた。
 なお、日本学生支援機構(JASSO)の統計によると、2019年5月1日現在、約31万2,214人の外国人留学生が日本で学んでいるという。最も多いのが中国からの留学生で12万4,436人、ついでベトナムが7万3,389人、ネパールが2万6,308人、韓国が1万8,338人と続く。ミャンマーからの留学生は5,383人で、7番目。この日登壇した4人の留学生たちは、いずれも日本とミャンマーの架け橋になる人材育成に取り組んでいる一般財団法人井内アジア留学生記念財団の奨学金で来日し、勉学に励んでいる。
(記事執筆:玉懸光枝)
<無断転載ご遠慮ください>
アンドモア
『ミャ日本語学校』について、以下のパンフレットとサイトをご覧ください。
https://www.facebook.com/MyaJapaneseLanguageSchool
Mya Japan Service Sarpay 出版社(Mya Japan Serivice Co., Ltd.)から出版した書物

  1. "Baluni ne Balupyar"、ミャ日本語学校訳、Mya Japan Service Sarpay出版、2019年3月。(原作:浜田廣介『泣いた赤鬼』フレーベル館、2007年。)
2. "Neiban 3"、清岡道治著、Mya Japan Serivice Sarpay出版、2019年8月。
3. "Fukuzawa Yukichi"、単訳、(公益財団法人)大同生命国際文化基金の依頼によりMya Japan Service Sarpay出版、2020年3月。(原作:浜野卓也『子どもの伝記15 福沢諭吉』ポプラポケット文庫、2010年。)
  当社より日本語の絵本や自伝といったような書物の翻訳・出版事業をミャンマーにおいて今後も継続して実施していく予定です。本事業にご関心のある方々のご支援・ご協力を呼び掛けております。ご連絡はミャ日本語学校<mya.japanschool@gmail.com>までお願いいたします。

井内奨学金制度については、以下のサイトをご覧ください。
https://www.iuchizaidan.or.jp/



井内奨学金7期生募集要項は、以下のサイトで公開中です。
https://www.facebook.com/IuchiCharitableTrustScholarship



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