Q:
遺跡のカタカナ表記に迷われるとのことでしたが、現地語ではタイェーキッタヤー、サンスクリット語ではシュリークシェートラと表記するのが良いと思います。シュリーは「吉祥なる」、クシェートラが「土地」を意味します。世界遺産には3遺跡が登録されており、ご発表ではベイタノーとシュリークシェートラを紹介されたが、3遺跡のうち残るハリン遺跡を含め、他のピューの遺跡は行かれたことがあるのでしょうか?また、考古学の立場から見て、「ピュー」の遺跡に共通する特徴は何があるでしょうか?
A:ハリンは行ってきません。シュリークシェートラの外側を中心に調査しました。次はハリンに行くように言われたが、行けなくなってしまいました。ピューの範囲の問題も難しく、様々な立場や国の研究者との関係があり、何とも言えません。広く言えば、幾つかの文化要素で括れると思います。日本の古墳時代や弥生時代も見方によって異なってきます。それを教科書で弥生時代とか縄文時代と教えているから、一体性があるようなイメージが形成されます。ミャンマーのピューだけでなく、どの文化もそのような要素はあるが、どのように教えるかによっても左右されると思います。これからきちんと調査をしなければなりません。現地では「モン」や「カレン」、「ピュー」と書かれるが、そこには難しい問題が横たわっているように思います。
Q:ミャンマーの考古学や発掘調査をめぐる状況について質問させていただきます。考古学者の方は海外留学した方が多いのでしょうか?あるいはミャンマーで教育を受けた方が多いのでしょうか?また、発掘調査はミャンマーだけでなく海外との合同調査で実施するのが多くのパターンなのでしょうか?その場合はどの国がかかわることが多いのか、教えていただきたく思います。遺跡保存の海外からの支援などの状況も併せて教えていただければと思います。
A:長い軍事政権下では、海外留学は難しく、短期間の例はありますが長期間した研究者はほぼ皆無だったと思います。民主化以降は海外留学が一挙に増加しましたが、今後は非常に心配です。遺跡保存については、正確にはイコモス(ICOMOS:正式名称はInternational Council on Monuments and Sites(国際記念物遺跡会議)、文化遺産保護に関わるユネスコ諮問機関としての国際的なNGO)やユネスコの関連するところを調べる必要があります。クーデターの前までは、様々な共同調査が実施されていました。多いのは英国やオーストラリアです。ミャンマーの研究者も国際交流を楽しみにしていると思います。遺跡保存についても、様々なプログラムが実施されていました。
Q:ミャンマーにおけるユネスコ世界遺産に対する社会的な反応をどのようにみられていらっしゃいますか?日本での「世界遺産検定」のような扱いをする状況と比較して、如何でしょうか?
A:世界遺産に対する反応はどの国もある程度似ています。一つの国際的なプレゼンスとしてあると思います。グローバルな枠組みとローカルな枠組みとして、お国柄を反映しつつ、共通している部分もあれば、違うところもあると思います。
Q:「ピュー」は普通話(北京語)で驃(ピャオ)(四声)です。馬偏であるように、馬が勇ましく走る様を意味する文字が当てられていますが、馬との関係が深く、共に生きていた民族と考えられますか?中国では、まったくの想像かもしれませんが、そのイメージで「ピュー」のドラマが作られ、放送されたこともあります。
A:これについては初耳です。ピューと中華世界の関係は全く調べてなかったので、これから勉強していきたいと思います。可能であれば、事後の共有等で教えていただければと思います。
質問者の石谷崇史さんからドラマに関する情報の共有がありました。タイトルは《舞乐传奇》で、CCTV(中央電視台)の制作とのことです。以下のURLから視聴可能です。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLIj4BzSwQ-_vBEipwYSgPVmSJ2z6CDouG 最後に、司会のナンミャケーカインさんから以下のような感想がありました。世界遺産登録されてからあまりアピールがなされておらず、もっと宣伝等をして多くの人に知ってもらいたいという気持ちがありました。また、多くの人に知ってもらえば、観光客を引き寄せることにもつながります。観光客が多くなると、これまでのように遺跡保存に目が行き届かなくなるという課題もあります。現在のミャンマーの不安定な情勢では、観光客が来られませんので、現地に足を運んで直に自分の目で見られるという幸せな時期があったと、感慨深くお話を拝聴しました。こうした調査や研究ができる日が戻ることを祈っています。
さらに、魚津さんは、ヤンゴン大学のウェブサイトを見たが、やはりクーデターの影響は大きく、非常に憂慮すべき状態ですが、交流はぜひとも継続していきたいとおっしゃっていました。世界遺産登録のこともあるので、何らかの形でプログラムが継続されるであろうし、海外に留学しているミャンマーの方はおられるようなので、考古学分野での研究の継続はある程度期待できるとのことでした。