発表要旨
モヒンガー はミャンマー人の生活に欠かせない麺料理です。楽しい時もモヒンガー、悲しい時もモヒンガー、この軽食は様々な場で供されています。朝は喫茶店で通勤・通学の前に。午後、小腹がすいたら道端の屋台で一碗を。ホーム・パーティーに来た友人たちをもてなすために、葬儀の後、初七日に僧侶と弔問客を招いた際にふるまわれるのもモヒンガーです。まさにモヒンガーはミャンマーの国民食といってよいでしょう。
モヒンガーはどのようにミャンマーの国民食になってきたのでしょう。そこでビルマ語で書かれた文学を研究する一人として、私はビルマ語文献の中にモヒンガーのルーツを求めてみました。その結果、モヒンガーは昔はミャンマーの国民食ではなかったことがわかりました。モヒンガーが今のようなレシピでミャンマー全国に知られるようになっていったのはどうも1930年以降らしい、そしてそこには一編の短編小説が大きな役割を果たしているのではないかという思いに至りました。それは現在も多くのミャンマー人から愛読されている作家、ゾージー(1907-1990)の書いた「愛する人」(1934)と題された作品です。ある内気な勤労青年が恋におちた相手、それは小さなモヒンガー屋を一人で切り盛りする若い女性でした。
参加されたみなさまといっしょにこの小説の抜粋を読みながら、ミャンマーの食文化の一面とその歴史的背景を探るひと時を過ごせたら幸いです。そして今は苦難の時にあるミャンマーの方々が、笑顔でモヒンガーを味わえる日が一日も早く来ることをお祈りしたいと思います。
写真キャプション「わーい、モヒンガーだ!」(追記): ミャンマーの人気麺モヒンガー。ミャンマー文字の綴りは最近の若者の発音を受けて「ムウィンガー」になっています。
ミャンマー文字の下に見える飾り文字は、Yay (わーい、イェイ!)
プロフィール
高橋ゆり
オーストラリア国立大学 ミャンマー(ビルマ)語学科 講師 明治大学政治経済学部卒業後、アジア関係書籍の編集者を経て日本語教育専門家に。ミャンマーからの学生たちを教えながら彼らの国と文化に関心を持つようになってビルマ語の勉強を始め、その後、東京外国語大学大学院(ビルマ文学専攻)卒業。1991年から1998年までビルマ語専門家として外務省勤務。1992年からヤンゴンで文学研究の延長としてビルマ古典歌謡の歌手としてのトレーニングを始め、現在に至るまでパゴダ祭り他数々の場で公演を行う。1998年からオーストラリア在住。2000年から2016年までシドニー大学で日本語教育を担当する一方、近代ミャンマー文学、思想史の研究を続けた。シドニー大学歴史学科修士号取得。シドニー大学アジア学博士号取得。2016年より現職。
ミャンマー文学の翻訳書を2冊出版しております。どうぞお楽しみ下さい。
『変わりゆくのはこの世のことわり』テイッパン・マウン・ワ作、髙橋ゆり訳
てらいんく刊 2001 年
https://www.amazon.co.jp/%E5%A4%89%E3%82%8F%E3%82%... 『マヌサーリー』ミンてインカ作、髙橋ゆり訳
てらいんく刊 2004年
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%8C%E3%82%...